目には見えないけれど、その場の雰囲気をつくったり、その人の個性を物語ったり、ときに記憶を呼び覚ましたりするもの——“香り”は脳や記憶に大きな影響を及ぼす存在だと感じます。
香水やルームフレグランスなど、香りは身近にあって日常に寄り添ってくれます。このブログで取り上げている「木」もそのひとつですが、今回はその香りの源である「香木」について少し紹介したいと思います。
1400年以上も前に伝わる「香木」の歴史
日本に“香り”が伝わったのは、1400年以上前に「香木」がもたらされたことがきっかけだといわれています。香木とは、その名の通り「香りのする木」で、お香の原料となる素材です。代表的なものに沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)があり、木の幹や樹皮、根の芳香や、樹木が傷ついた際に分泌される樹液が変質・熟成することで特有の香りを放ちます。

東南アジアを原産とする香木は、祈りや儀式に使われ、仏教の伝来とともに日本に伝わりました。やがて平安時代には雅な貴族のたしなみとなり、武家の時代には香木を所有することが権力の象徴となり、戦国武将たちは兜に香を焚きしめて出陣したという話も語り継がれています。
江戸時代になると線香が登場して庶民に広まります。一方で吉原遊郭や歌舞伎の世界では、高価で優雅な香り「伽羅」がもてはやされ、憧れの象徴となっていたそうです。明治以降になると、西洋の香水文化と融合し、今につながる新しい香り文化が形成されていったとされています。
自然の力なくしては生み出せない香木は、地球が長い時間をかけて育んだ恵みであり、今では入手が難しいものも少なくありません。
世界から注目される日本古来の「和香木」
日本古来の樹木の中にも、香りが重宝されてきたものがあります。近年は「和香木」として世界的にも注目されており、このブログでもよく登場するヒノキはその代表格です。清々しく気分を落ち着かせる香りは古くからヒノキ風呂として親しまれてきました。
ヒバもまたヒノキチオールを豊富に含み、清涼感ある香りが特徴です。さらに、コウヤマキは針葉樹ならではの青々とした緑の香りで、森林浴をしているような気持ちにさせてくれます。
こうした樹木に加えて、沈丁花やクチナシ、金木犀などの花々も、日本の香り文化を彩ってきました。
現在ヨーロッパでは盆栽などと並び、香道も密かなブームだといわれています。香道は室町時代の後期、茶道・華道とともに確立された芸道で、香木の香りを鑑賞しながら和歌や書をたしなむ文化です。森林の豊かな国だからこそ育まれた、日本独自の美意識を感じますね。
一休さんの書んに伝わる香りの10の効能
お香がもたらす10の効能を書いた「 香十徳」は、中国の詩人・黄庭賢が詠んだもの。これを日本の世の中に広めたのがアニメ『一休さん』のモデルでもある室町時代の僧・一休宗純です。お香に詳しかった一休宗純が書にしたため、公家や武家だけでなく庶民にも伝わっていったとされています。
「香十徳」
1. 感格鬼神 ——感覚が鬼や神のように研ぎ澄まされる
2.清浄心身 ——心身を浄化する
3.能除汚穢 ——穢れを取り除く
4.能覚睡眠 ——眠気を覚まし集中できる
5.静中成友 ——静けさの中で孤独感をいやす
6.塵裡偸閑 ——忙しいときにも安らぎを与える
7.多而不厭 ——多くても邪魔にならない
8.寡而為足 ——少なくても芳香を放つ
9.久蔵不朽 ——長く保存しても朽ちない
10. 常用無障 ——常用しても害がない
いかがですか。香りの効能がとてもわかりやすく伝わってきますね。香りの奥深さを知ると、木がより一層身近に感じられそうです。
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ちなみに、このブログを書くにあたって、友人からもらったお香を焚いてみました。その名も「エターナル/香木の香り」。タイミングよく、これをプレゼントしてくれた友人がすごい!(笑)
香りが満ちてくると心なしか、凛とした気持ちになって筆が進んだような気がします。これからは、もっと意識的に香りを使ってみようと思いました。
【参考】
『Discover Japan』2025年5月号
特集「世界を魅了するニッポンの香り/いま注目の泊まりたいホテル」
林野庁「木曽五木」
https://www.rinya.maff.go.jp/chubu/kiso/morigatari/kisogoboku.html