木曽五木と聞いて、まず思い浮かぶのはヒノキやコウヤマキかもしれません。香りがよく、木目も美しく、神社仏閣にも使われる「主役級」の木々ですよね。
でも今回紹介する「ネズコ」は、そのなかでちょっと異色の存在。派手さはないけれど、実は昔から暮らしの縁の下でずっと私たちを支えてきた木なんです。
「クロベ」とも呼ばれる、控えめな木

「ネズコ」という名前、実は当て字です。材の色が鼠色をしていることから、木偏に鼠と書いて「ネズコ」と読ませたのが由来だといわれています。ヒノキ科の常緑針葉樹で、色味も香りも装飾性も控えめ。木曽五木のなかでは一番地味な存在かもしれません。
また、葉が黒っぽいことから別名「クロベ(黒桧)」とも呼ばれます。材は鼠色、葉は黒っぽい色。ひとつの木に、動物と色、両方の由来が重なっているのも面白いところです。
軽くて狂いが少ない。実用性の塊

華やかさでは他の木曽五木に一歩譲るネズコですが、木材としての実力は侮れません。
- 軽い:加工や運搬がしやすく、扱いやすい
- 狂いが少ない:反りや割れが起きにくく、安定している
- 加工しやすい:職人にとって扱いやすい木材
香りや木目の美しさで選ばれるヒノキやコウヤマキに対して、ネズコは「扱いやすさ」「安定感」という実用面の強さで評価されてきた木です。耐朽性もそこそこありながら、価格帯は比較的手頃という位置づけも、地味だけど頼れる所以かもしれません。
天井板、障子、下駄…目立たないけれど暮らしを支える木

そんなネズコが古くから使われてきたのが、天井板や障子などの建具材、和机、下駄、指物(さしもの)といった道具たち。
どれも「見せる」ためというより「使う」ための場所。派手な化粧材として表舞台に立つことは少なくても、天井を見上げたとき、障子を開け閉めしたとき、下駄を履いたとき——気づかないうちに、ネズコは私たちの暮らしのすぐそばにありました。
「イヌ」がつく木、実は優秀?

実はネズコ、関東では「イヌビ」とも呼ばれています。ねずみが由来なのに「イヌ」がつくとは、ちょっと意外ですよね。ちょっと調べてみたところ、「イヌ」がつく木は他にもたくさんあるみたいです。「イヌエンジュ」「イヌマキ」「イヌツゲ」「イヌシデ」などなど。一般的に植物の名前に「犬」がつくと、似ているけれど本家より役に立たない、または質が劣るという意味で使われることが多いんだとか。
ネズコの別名は「クロベ(黒檜)」。檜(ヒノキ)に似た木、という位置づけですが、ヒノキのようなあの独特の芳香はありません。もしかすると、「檜に似ているのに香りがない」というところから、「イヌ」がついたのかも?というのは筆者の勝手な想像ですが…。

家具づくりの世界でも、この考え方と近いものがあるかもしれません。テーブルなら天板の樹種や木目の美しさに目が行きがちですが、脚部やフレーム、引き出しの内部といった見えない部分にこそ、狂いの少なさや安定感が求められることがあります。
表に立つ木と、支える木。その組み合わせがあってこそ、長く使える一台になるのだと思うと、ネズコの生き方は家具づくりの哲学そのものにも重なる気がしてきます。
「地味」だからこそ、長く愛される

ヒノキやコウヤマキのような主役級の木々に比べると、ネズコは決して目立つ存在ではありません。でも、狂いが少なく扱いやすいという特性は、まさに「長く使われる」ための資質そのもの。
派手さより、安定感。存在感より、扱いやすさ。
そう考えると、ネズコの控えめさこそが、何百年も暮らしのなかで生き残ってきた理由なのかもしれません。

ちなみに「ネズコ」という響き、どこかで聞き覚えがある方も多いのでは。某有名アニメのヒロインを思い浮かべてしまうのは私だけでしょうか(笑)。作中のヒロインも、見た目とのギャップで芯の強さを感じさせるキャラクターですが、木のネズコもまさに「見た目は地味でも芯は強い」タイプ。そう思うと、この木にちょっと親近感がわいてきませんか。
木曽五木シリーズ、次回はいよいよ最後の1本、コウヤマキをご紹介する予定です。お楽しみに。
【参考】
【木曽五木シリーズ>






























































































