重ねられる椅子、と聞いて思い浮かべるもの
重ねられる椅子=スタッキングチェアと聞くと学校や会議、セミナーやイベントなど、大勢が一度に集まるときに並べられるいわゆる、いわゆるパイプ椅子のようなものを想像してしまうのですが、みなさんはいかがですか?

調べてみると、最近のスタッキングチェアって、すごくおしゃれなものが増えていることに驚きました。そもそもたくさんの椅子が必要になる場面がなかったので、これまで気にしたことがなかっただけなのですが……。スチールやアルミ、樹脂フレームのものから、木製まで。調べてみると、スタッキングチェアの世界は思っていたより広くて深い!
コダマプロジェクトが手がけるコダマチェア「ZEN」も、そんなスタッキングチェアのひとつ。使わないときは重ねておけて省スペース。しかも全部、檜の無垢材でつくられているんです。実は木の椅子でスタッキング、という組み合わせは珍しく、その背景にはコダマプロジェクトらしい開発の道のりがありました。

そもそもスタッキングチェアとは
スタッキングチェアとは、重ねて収納できる椅子のこと。省スペース性が求められるオフィスや店舗、公共施設などで使われることが多く、軽さと強度を両立させる必要から、スチールやアルミ、樹脂といった素材でつくられるのが一般的です。
木、それも無垢の針葉樹でスタッキングチェアをつくる例は、実はあまり多くありません。針葉樹は広葉樹に比べて密度が低く、椅子としての強度を出しにくいとされてきたからです。「ZEN」は、その難しさにあえて挑んでつくられた椅子です。

なぜ、檜でスタッキングチェアをつくったのか
「ZEN」の素材は、東白川村産の檜です。プロジェクトの拠点である東白川村は、日本の森林の50%以上を占める針葉樹の産地のひとつ。「上流の山と下流の街の人と人をつなぐ」というコダマプロジェクトのコンセプトを鑑みると、椅子の素材として東白川産の針葉樹を避けて通ることはできませんでした。
あえて檜を選ぶ。それは、産地にある木をそのまま活かすという、プロジェクトの姿勢そのものです。

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7000回の強度試験、そして一度壊れた背もたれ
デザインを手がけたのは村澤さん(ムラサワデザイン)、製作を担ったのは内木さん(然)という、コダマプロジェクトの家具部門を担うおふたり。
木材を太くすれば強度は出せますが、それでは見た目の軽やかさが損なわれます。檜本来の木目の美しさを活かしながら、必要な強度を確保する。デザインと強度、どちらも譲らないための答えを出すのに何度も試作を重ねたといいます。

実は、椅子というものは家具の中でも厳しい基準があるそうで、商品として完成させるまでには大変な苦労があるのだといいます。
人が安全に身体を預けられるかどうか、厳しい基準が設けられています。家庭用・オフィス用・学校用・公共施設用と、用途ごとに満たすべき強度基準があり、公共機関に置かれることを想定場合とかなりの強度、耐久性が求められるのは想像に難くないですよね。
日常使用を想定した静的試験、急な力を加えた際の衝撃試験、長期使用を想定した耐久性試験。この3つをクリアして、はじめて人の手元に届けられる状態になります。
座面に60kgの重りを載せ、背もたれに機械で負荷をかけるという椅子の強度試験。
「ZEN」の試作ではこの試験の段階で接合部分が剥がれてしまい、あえなく断念という結果に終わったことも。

強度だけを優先するならば、椅子の足をがっちりと太くし、座面も分厚くすればクリアはできるでしょう。でも、それではデザインが損なわれ、さらに日常的に使うには重たすぎるという問題も出てきます。見た目を損なわず、軽くて丈夫、という理想を実現させるために、デザインを一から考え直すとことから再出発することにした村澤さんと内木さん。
椅子をすべてバラして接合部の加工を見直し、ダボとネジで補強。座面の間口を広めに、奥行きを浅く取ることで、直線的で北欧スタイルを思わせる脚のラインにリデザインする―。そうした地道なやり直しを重ね、最終的に超難関の約7000回の強度試験をクリアしました。
きれいに仕上がった椅子の裏側に、こんな開発秘話があるとは…。なんだか1脚の椅子の誕生にも重みが出てきますね。

「ZEN(然)」という名前
「ZEN」という名前について、由来はふたつあります。
ひとつは製作を担った工房の名前「然(ぜん)」から。もうひとつは、椅子のフレームがアルファベットの「Z」を描いていることから。工房の名と、椅子の構造。ふたつの「Z」が重なって、この名前になりました。

「然」という字は、「自然」「天然」「当然」というように、ものごとが本来あるべき姿でそこにある、という意味を持つ字です。飾りたてず、無理に手を加えず、あるがままの状態を良しとする。この一字を名前に選んだ背景には、木という素材への向き合い方そのものが表れているように思います。
そしてローマ字で「ZEN」と書くと、日本語を知らない人にも「禅」を連想させます。静けさ、簡素さ、削ぎ落とされた美しさ。宗教的な意味合いを離れても、「ZEN」という響きにはそうしたイメージが自然と重なります。

装飾を足すのではなく、引いていくことで完成に近づける。そう考えると、「然」も「ZEN」も、この椅子がどうつくられたかという事実と、驚くほど重なって見えてきます。名前を後から当てはめたというより、椅子そのものが持っていた性質に、ちょうど合う言葉が見つかった。そんなふうに感じます。
会議室の椅子は、なぜ座り心地を後回しにされるのか
さて、ちょっと話は変わりますが、学校の椅子、会議室の椅子って、長時間座ることが前提の場所なのに、座り心地について語られることはあまりありませんよね。
集中していれば椅子のことなど気にならない、というのも一理あるのですが、実際には長時間の窮屈な姿勢が、集中力や発想力にじわじわ影響しているのではないかと思うことがあります。

もし、あの場所にある椅子が、パイプ椅子ではなく、「ZEN」のような檜のスタッキングチェアだったら―。軽い、重ねられる、耐久性がある、という実用性はそのままに、座る人の体験はずいぶん変わるのではないでしょうか。
檜には、抗菌・防虫効果があるとされています。また、あの独特の香りにはリラックス効果があるとも言われ、脳や自律神経をリラックスさせる効果があるという研究結果も発表されています。森林浴に近い感覚を得られるという話も以前このブログでも紹介したとおり。長時間の会議などふと息が詰まりそうなときでも、ふと檜の香りがしてくると、思考をほぐしてくれそうな気がしますよね。

椅子ひとつで、空間は変わります。堅い議題を話し合う会議室に、木の質感とほのかな香りがあるだけで、意外といいアイデアが生まれやすくなるかも。ちょっと気が重いミーティング、「ZEN」みたいな檜の椅子が置いてあったらいいのにな~と妄想してしまいました。
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【参照】コダマスタッキングチェア「ZEN」


