『パワーズ・オブ・ テン』という短編映画を見たことはありますか?
シカゴの午後、芝生でピクニックをするカップルを俯瞰したカメラが、10秒ごとに10倍ずつズームアウトしていって、やがて銀河の外側まで飛び出す。かと思えば今度は逆方向に。銀河からピクニックの公園に戻り、カップルの男性の皮膚の内側、細胞、原子の世界へと潜っていく—。
『Powers of Ten』(1977) 監督:チャールズ&レイ・イームズ © Eames Office
わずか9分の映像なのに、観るたびに「自分がいる場所」の輪郭がちょっとずつ書き換えられるような、不思議な感覚になるんですよね。ご存知の方も多いとは思いますが、実はこの映画を作ったのは、チャールズ・イームズとレイ・イームズのご夫妻。そう、あの「イームズチェア」のイームズです。
1977年公開のこの作品、もともとは科学教育のために作られたものなんですが、今観てもまったく古びてなくて斬新だな~と思います。「スケールを変えて物事を見る」「システムとして世界を捉える」という思想は、イームズ夫妻のデザインや家具づくりにも通じているのかなと想像してしまいます。
イームズと一脚のラウンジチェア
イームズ夫妻というと、真っ先に思い浮かぶのは、あの黒い革張りのラウンジチェア&オットマン。もしくは、カフェやオフィスでもよく見かける、プラスチック製のシェルチェアかもしれませんね。
彼らの代表作はほかにもあります。例えば1946年に発表された、成形合板だけでできたラウンジチェア「LCW(Lounge Chair Wood)」。

座面と背もたれ、そして脚まですべてが木の合板を熱と圧力で曲げてつくられていて、金属もクッションもなし。それなのに、体の丸みにすっとフィットするような優しいカーブを描いています。試作品はイームズ夫妻の自宅で、自作の「カザーム・マシン」を使って作ったそうです。
このマシン、自転車の空気入れを使った自作の機械。空気入れで膨らませたゴム風船を押し付けることで、木を曲げてカーブを付けるというものです。もともとは第二次世界大戦中に、ケガをした負傷兵のための添え木を開発するという軍の依頼から生まれた技術なんですって。戦後、夫妻はこの技術を家具づくりへと応用していきました。
ちなみに、「カザーム・マシン」 については、イームズ製品を手がけるメーカー・ヴィトラの公式サイトに掲載されています。チャールズが電柱にのぼった話とかおもしろいエピソードも紹介されているので、興味がある方は読んでみてください。
The Kazam! Machine
20世紀を代表する椅子「LCW」

複雑な曲面を実現させるための技術や、圧倒的なアイデアと行動力が評価され、LCWは1999年のアメリカTime誌「20世紀を代表するベストデザイン」に選出されます。
木の質感そのものを主役にした潔さもさながら、人の身体を包み込む滑らかなカーブを見ると、本当にほれぼれしてしまいます。
装飾的なものがそぎ落とされ、モダニズムという考えが流行っていた時代。“椅子こそが王様”という人もいるくらい、椅子は空間の質を左右する大事な家具でした。そう考えると、イームズの椅子は時代を象徴する作品というより、時代そのものをつくった一脚、と言ってしまってもいいのかもしれませんね。
「曲線は機能」NORTEの椅子

アメリカミッドセンチュリーを代表する「LCW」。国も時代も違うけれど、なんとなく似た空気感を感じるのがNORTEの椅子「ARC 01 Chair」です。大きく弧を描く曲木のフレームが、体をふわりと包み込むように支えてくれる一脚で、掲げているコンセプトは「曲線は、機能である」——。装飾のためのカーブではなく、体を支えるために必然として生まれた曲線です。この発想は、成形合板の曲面だけで人の体を受け止めた「LCW」の思想とつながっている気がします。
【アークチェア】
ARC 01 Chair / アーク01チェア 「大きな曲木が身体を包み込む」

NORTEは北欧デザインをベースにした家具ブランド。ARC 01 Chairの「曲線は、機能である」というコンセプトは、毎日座るという当たり前の行為を少しでも心地よくするためのデザインであったり、暮らしの質感を底上げする上質感であったり、さまざまな心地よさをふくんでいます。
ズームアウトして見えてくるもの
暮らしの道具でもある椅子は、多くのものを求められます。
例えば、「毎日座っても飽きないか」「10年後もこの椅子と暮らしていたいか」「ダイニングにも自然に馴染むかどうか」ということ。北欧デザインの家具や、ミッドセンチュリーモダンのデザイナーズチェアが世代を超えて選ばれ続けているのも、突き詰めれば「毎日使える道具である」という一点に尽きるのかもしれません。

流行りものを何度も買い替えるより、気に入った一脚を長く使い込むほうが、結果的に暮らしの満足度は高い——そんな感覚、共感していただける方も多いのではないでしょうか。
今、あなたが座っている椅子はどんなものですか?
秋の夜長、たまには家具のルーツをたどりながら、自分の暮らしに合う一脚をゆっくり探してみてはいかがでしょうか。10年後もそばにいてくれる椅子と出会えるかもしれません。
【参考】





















































































