私の家には、ピアノがあります
KAWAIのアップライトピアノで、祖父が入学のお祝いに買ってくれたものです。まだ小さかった私にとって、それはとても大きな贈り物で、記憶のなかでも強く印象に残っています。
小学4年生くらいまでは、ピアノ教室に通ってレッスンを受けていました。でも次第に他の習い事に夢中になり、通わなくなってしまいました。
大人になった今では、年に数回ふと弾いてみる程度。ほとんど出番がなくなってしまったピアノを見て、「ちゃんと使ってくれる人のところに行ったほうが幸せなんじゃないか」と思うようになりました。
そんな気持ちもあって、よくテレビCMで見かける「ピアノ売ってちょうだい♪」のような買い取りサービスに査定をお願いしてみました。製造から30年以上経っているし、値段なんてつかないだろうな……と正直、あまり期待していませんでした。
ところが、想像していたよりもずっと高い金額を提示されて、驚いてしまったのです。
普通なら「ラッキー!」と即決してしまいそうなところですが、不思議なことに心がざわついてしまい、その場で「やっぱりやめます」と保留にしてしまいました。
なぜ私は迷ってしまったのか
その理由を改めて考えてみたところ、私の中で引っかかっていたのは「想い出の価値」だったのだと気づきました。
祖父に買ってもらったこと、一緒に育ってきたこと、発表会の前に必死で練習したこと。そんな記憶が、ピアノの音や姿とともに自分のなかに刻まれていたのです。
今ではあまり弾いていないとはいえ、私の暮らしの風景の中にそのピアノは当たり前のようにあって、「いなくなったら寂しいな」と思ってしまったのでした。
ピアノって、場所もとるし、引き取ってもらえれば部屋も広くなるし、合理的には手放したほうがいいのかもしれません。でも、なんだかそれだけでは説明できない、情のようなものがあるのですね。
今では電子ピアノもだいぶ普及してきました。電子ピアノは音量調整や録音機能などもあって便利ですが、いわゆる“電化製品”の分類になるため、2~3年ほどで買い取り価格がつかなくなると言われています。その点、アップライトやグランドなどのアコースティックピアノは、ほとんどの構造が木材でできていて、きちんとメンテナンスすれば30年、40年たっても価値が残るということを今回の経験から知りました。
この話、実は「家具」にも通じる気がしています
ファストインテリアのように、手軽に買い替えられる家具が身近になった一方で、コロナ禍以降、「一生モノ」と呼ばれるような無垢材の家具への関心も高まっています。
木の家具は、時間とともに色や手触りが変わっていきます。傷やシミさえも、“想い出”として味わいになっていく。それは、私にとってのピアノと同じように、ただの“モノ”ではなく、“一緒に育っていく存在”になっていくのだと思います。
そして、メンテナンスしながら長く付き合えるところもまた、木の家具やピアノの魅力です。手をかけることで、より愛着が深まっていくのです。

読者のみなさんの家には、長く付き合っている家具はありますか? また、これから一緒に“育てていきたい”と思える家具、どんなものを思い浮かべますか?
【参考】