奇妙な斑点・ワームホール

だいぶ昔、楽器店で少し不思議な見た目のギターを見かけたことがあります。ボディにはポツポツと黒い斑点のようなものがあり、ところどころに、うねるようなひび割れも入っていました。よく見ると、その斑点はただの模様ではなく、小さな穴。
調べてみると、それは「ワームホール」と呼ばれるものだと知りました。つまり、虫食いです。
こうした虫食いの木材は、一般的には楽器にはほとんど使われません。そのため流通することも少なく、ちょっと珍しい存在。そんなこともあって、ずっと記憶に残っていました。
樹齢300年超のミズナラを使った「WORMHOLE」

ところで、なぜ急にそんな昔の記憶を思い出したのかというと、「WORMHOLE」というアート作品を知ったからです。
樹齢およそ300年のミズナラなどの巨木を用いた作品で、大きな木そのものをアートへと昇華させています。形や大きさは作品ごとに異なりますが、多くは高さ2メートルほどのスケールで、圧倒的な存在感を放っています。2025年に大阪で開催された国際博覧会では、4メートル弱の作品も展示され、話題となりました。
作者は、彫刻家の国松希根太(くにまつ・きねた)さん。北海道生まれで、2002年から北海道白老町を拠点に制作活動を続けています。

【国松希根太 プロフィール】1977年北海道生まれ。多摩美術大学美術学部彫刻科を卒業後、2002年より飛生アートコミュニティー(北海道、白老町)を拠点に制作活動を行なう。また Ayoro Laboratory (2015-)の活動を立石信一(現:国立アイヌ民族博物館学芸員)と展開、飛生アートコミュニティーで結成されたアーティスト・コレクティブ THE SNOWFLAKES (2020-)の一員としても活動を続ける。※十和田市現代美術館HPより抜粋(画像提供:十和田市現代美術館)
国松さんの作品「WORMHOLE」。
タイトルの「ワームホール」は、宇宙に存在する時空をつなぐといわれるトンネルのこと。同時に、木にあいた虫食い穴のイメージも重ねられていて、作品には「時空を超えてワープする入り口(穴)」と「虫食い穴」という、二つの“穴”が表現されています。
この作品に惹かれた理由は、ひとことで言うと「木のオーラ」。
木というのは、自然の中に立っているときがいちばん美しい——そう思っていたのですが、この作品を見たとき、むしろ自然の中にあるとき以上の存在感をまとっているように感じたのです。
木肌にまとうオーラと人間味

どこか、人が立っているようにも見える「WORMHOLE」。このシリーズは木の表面をバーナーで焼き、黒く焦がした部分がつくられています。角度によっては、その黒い部分がぽっかりと開いた穴のようにも見えて、少し不穏な気配も漂います。
国松さんは、動画の中である体験について語っていました。
“近づいてはいけない洞窟”を訪れたときのことです。
自然に岩が崩れてできた洞窟で、アイヌの人たちはそこを「あの世への入り口」と呼んでいるのだそうです。
洞窟の中は、真っ暗。
「真っ暗闇って、ちょっと怖い。自然は美しいだけじゃなくて、そういうちょっと怖いっていう意識も必要だなと感じていた時期があった。でも真っ暗闇の中って、何かを想像したり自分のことを感じたりする場所でもある」
そんな言葉が、印象に残りました。

美しい木目があらわれている面と、黒く焦がされた面。ゴツゴツとした無骨な表情と、つるりと整えられた滑らかな面。
その対比を見ていると、どこか人間の精神のあり方にも重なって見えてきます。表面では笑っていても、内面では怒っていたり。逆に、いかつい表情の奥に、とても繊細な感情を抱えていたり。
やわらかく自然な木肌と、焦げた黒のコントラスト。そのバランスが、見る人の想像力をぐっと引き出してくれるように感じました。こうした木の個性は、国松さんの手によって引き出されているのかもしれません。
ここまで、まるで実際に見てきたかのように書いてしまいましたが、実はまだ画像で見ただけ。きっと実物は、もっと迫力があり、圧倒される存在なのだろうと想像しています。
現在、青森県の十和田市現代美術館にて国松さんの展覧会が開催されています。遠くの方も近くの方も、実際の作品をぜひ目にしてもらいたいと思います。(展覧会の詳細は文末に)
時空を超えて「命に向きあう」感覚

国松さんは、樹齢の長い大木を素材に作品を制作するなかで、「命に向き合っているような感覚がある」と話します。「WORMHOLE」という作品名に込められた「時空を超えてワープする入り口(穴)」という意味も、そうした感覚とどこか重なっているように感じられます。長い年月を生きてきた木と、今ここにいる自分自身。時空を越えて向き合う時間のなかで、新たに見えてくるものがあるのかもしれません。
国松さんの作品を見ながら、木という素材について改めて考えました。
虫が通った跡や、長い年月のなかで刻まれた傷や割れ。かつては“欠点”とされていたようなものも、見方を変えれば、その木が生きてきた時間の証でもあります。家具の世界でいうと、そうした跡を欠点として消すのではなく、木が過ごしてきた時間の一部として受け止め、家具に生かすという考え方が、最近になってまた注目されているようにも感じられます。

長い年月を重ねた木を前にすると、ただの素材というより、どこか“生きてきたもの”と向き合っているような感覚になることがあります。国松さんが語っていた「命に向き合っている」という言葉も、少しわかる気がしました。


■国松希根太 連鎖する息吹

会期:2025年12月13日(土) – 2026年5月10日(日)
場所:十和田市現代美術館(青森県十和田市西二番町10-9)
時間:9:00 – 17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)
料金:一般1800円(常設展含む)、高校生以下無料
【画像提供】十和田市現代美術館
アイキャッチ画像: 《WORMHOLE》2024
札幌国際芸術祭2024 展示風景
撮影:藤倉翼


