インテリアの中でもひときわ注目されるのが椅子。時代のなかでたくさんの名作が生み出されてきました。
そんな椅子についての歴史を、「歴史の流れがひと目でわかる 年表&系譜付き 新版 名作椅子の由来図典」に基づいてちょっとさかのぼってみましょう。
日本で一番古い椅子は弥生時代前期
椅子、というと想像するのが背もたれと肘掛けが付いているタイプではないでしょうか。日本では、この「チェア」タイプが普及したのは明治以降。それまでは“腰掛けのようなスツールタイプが使われていました。
日本で一番古い椅子(腰掛け)は弥生時代前期と推定される機織用のもの。徳島市の庄・蔵本遺跡で1992年に見つかりました。
素材は広葉樹のクヌギ。装飾などはなく、ずっしりと重たい椅子で、形状などから機織りをするときに女性や子どもが座っていたといわれています。
静岡県の登呂遺跡では、座面と脚をホゾ組みした椅子が出土しています。座面と脚を外せばコンパクトに収納できるし、移動するのにも簡単ですよね。こちらは地元静岡県産のスギでできています。弥生時代から古墳時代にかけて、数多くの椅子(腰掛け)が見つかっていますが、その用途は日常生活で使うというよりも、作業用または祭礼用に使われたのではないかと推測されています。
椅子は権威の象徴だった
でもやっぱり「椅子」と言われてイメージするのは背もたれと肘掛けがあるタイプですよね。日本に現存する肘掛けタイプで一番古いのは、正倉院に所蔵されている「赤漆槻木胡床(せきしつつきのきこしょう)」です。
あぐらをかいて座れるくらい座面が広く、直線的なデザインが特徴です。ケヤキ材に赤い漆が塗られていて、脚先や座面の角には金銅製の金具が取り付けられています。
これは天皇が儀式の際に座るためのものだそう。貴族たちは背もたれのないスツールタイプの椅子に座っていたということから、椅子は権威や身分の高さを示す道具だったとされています。
明治時代には学校で椅子が使われるように
家庭に椅子が普及してきたのはいつごろなのでしょう。
床に座る生活をしてきた昔の日本人。鎖国が終わり欧米諸国との交流が始まったころから椅子にふれる機会が増え、明治時代になるころには学校で椅子が使われるようになったことで、少しずつ一般家庭にも普及していったとされています。
海外から持ち込まれた椅子をもとに、江戸時代末期には日本人の大工も椅子をつくり始めます。日本の職人たちは、外国から入ってきた椅子を真似てつくり、和室でも使える椅子なども考案されました。
時を経て、戦後はアメリカ文化が流入し、住宅には洋間が作られるようになり椅子の生活が広まっていきました。日本でもデザイナーたちの名作が作り出され、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のパーマネントコレクションに選定される椅子が次々と登場するなど、世界でも認められるようになっていきました。
今ではすっかり当たり前になった椅子ですが、さかのぼれば歴史があるものですね。
ちなみに、世界中で現存する最古の椅子は紀元前5500年~7000年ごろ、新石器時代。トルコのチャタルホユック(チャタル・ヒュユク)遺跡から出土したものだそうですよ。
【参考】
「歴史の流れがひと目でわかる 年表&系譜付き 新版 名作椅子の由来図典」西川栄明著(誠文堂新光社)